細田守監督最新作『果てしなきスカーレット』に込めた深遠なテーマとは?豪華キャストと共に「生と死」を問う!
<金曜ロードショー>で細田守監督特集第3弾として「竜とそばかすの姫」が放送されるなど、常に注目を集める細田守監督。その最新作『果てしなきスカーレット』が現在公開中です。
本作は、復讐にとらわれた王女スカーレットと現代の看護師・聖(ひじり)が出会い、共に旅をする中で「生きるとは何か」を問いかける壮大な物語。細田監督がこの作品に込めた並々ならぬ想いを深掘りします。
細田守監督、新作で「復讐」に挑む背景とは?
本作の大きなキーワードは「復讐」。細田監督が初めて挑むこのテーマの着想は、コロナ禍が明けた後の世界情勢にあったと明かします。
「この映画を作り始めたのはコロナがちょうど明けたあたり。非常に苦しいコロナの時代が終わったと思ったら、世界でいろいろな紛争が続け様に起きるようになりました。復讐に次ぐ復讐、そんな負の連鎖の先になにがあるのか、と考えるようになって。これから違う世界のありように突入していくのではないかと思った時に、復讐というものをどのように考えればいいのかという想いで作ったつもりです」
また、モチーフの一つにはシェイクスピアの「ハムレット」があったといいます。「復讐劇はエンタテインメント性があり、映画の一つの王道ジャンル」としながらも、現代において「善人と悪人を倒したら幸せというのではなく、それぞれに正義があって、一方が復讐を果たしたら、もう一方のほうの復讐劇がまた始まろうとする」という視点から、復讐のその先に続く「悲劇」に目を向けています。
制作に4年を要した本作を通して、現代の若者たちの不安に寄り添いたいという監督の強いメッセージが込められています。
主人公スカーレットに込めた「力強さ」
「ハムレット」をモチーフにしつつも、主人公を男性から女性のスカーレットへ変更した背景には、細田監督が学生時代に観た蜷川幸雄さん演出の舞台「ハムレット」で、荻野目慶子さんが演じたオフィーリアの姿がありました。
「荻野目さんが演じたオフィーリアからはかわいそうなだけじゃなくて、運命に負けていない力強さのようなものを感じて。それが強く心に残っていたので、主人公にあたるスカーレットをハムレットと同じく男性にはせずに女性しました。悲劇のヒロインとして描かれがちなオフィーリアを、ただ美しいではなく運命に抗い力強いヒロインとして描くべきというのは、当時から僕自身感じていたことでした」
タイトルの「果てしなき」には、「終わりなき争い」という負の側面だけでなく、「争いを終わらせようという試みは果てしなく続く」という希望にも通じる多義的な想いが込められています。
監督自身の経験が作品に与えた影響:「生と死」と「看護師」
本作では「死後の世界」も描かれており、「生と死」という大きなテーマに挑んだ監督自身の死生観が影響していると語ります。そのきっかけは、監督自身がコロナに感染し、死と隣り合わせの状況を経験したことでした。
「コロナになって入院すると最初の1週間の対応が大事だと言われます。(中略)僕は幸いにも改善し、快復することが出来ましたが、この入院期間中に死と隣り合わせの状況を経験したからこそ“生と死”について考えること、感じることは当然あったと思います」
この入院経験は、岡田将生さん演じる看護師・聖(ひじり)というキャラクターの職業にも繋がっています。「防護服を通してでも優しさはものすごく伝わってきます。一種の才能が必要な職業だと思った」と看護師への敬意を語り、復讐者のスカーレットと対比する理想主義者としての聖の姿が生まれたと明かしました。
豪華キャスト陣が織りなす「果てしなきスカーレット」の世界
主人公スカーレットの声を芦田愛菜さん、聖役を岡田将生さんが担当。そして、スカーレットの宿敵クローディアス役を細田作品へ4度目の参加となる役所広司さんが演じています。
特に役所広司さんの演技については、監督は「力強さと憎らしさと狡賢さと哀れさ。最初からすごい表現力です」と絶賛。
「最後のシーンではこの映画のテーマである“生と死”に行きつき、人間が極限にまで行った時に出す声は、ある種の答えのようなものまでを聞かせてもらって。本当に鳥肌が立ちました。これをアニメーションの画にするのは果たして可能なのか、無理なのではないかと思ったくらいです」と、その圧倒的な存在感が作品全体に大きな影響を与えたことを強調しました。
また、スカーレットを演じ歌唱も披露する芦田愛菜さんについても、「芦田さんの歌を聴いて、そのすばらしさに驚きました。スカーレットを演じた役者さんが歌うことに意味がある、それがこの歌を、映画を何倍もよくすることになると確信しました」と語り、パブリックイメージとは異なる復讐者の役柄を演じきる表現力の幅を大絶賛しています。
『時をかける少女』から19年、細田監督が描く「未来」の変遷
現代から来た男性に主人公の女性が「未来を変える」と宣言する物語の構造は、名作『時をかける少女』(2006年)を彷彿とさせます。監督自身も「高橋プロデューサーから指摘されて、そうかも!と思いました。確かに構造は似ています」と認めつつ、決定的な違いは「未来感」にあると説明します。
「『時をかける少女』から『果てしなきスカーレット』までの19年の間に“未来”のあり方が変わったのではないかと考えています。2006年の『時をかける少女』当時はまだ希望があるような未来感を描いていたと思います。(中略)でもいまの若い人たちは、いろいろなものにがんじがらめになっていると思うんです。SNSの情報に振り回されたり、必要のない心配をしたり…」
現代の若者の不安に寄り添い、力になれるような映画にしたいという監督の願いが、『果てしなきスカーレット』には込められています。
壮大なスケールで描かれる細田守監督の最新作、ぜひ劇場でそのメッセージを体感してください。
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