手塚治虫は本当に「低迷」していたのか?『来見沢善彦の愚行』から読み解く、漫画史に残る巨匠の真実
漫画界の巨匠手塚治虫。そのキャリアは決して平坦な道のりではありませんでした。「ブラック・ジャック」連載前は時代に乗り遅れた存在だった?そんな定説を覆す新たな視点が、話題の漫画『来見沢善彦の愚行』から見えてきました。
時代とのズレ?手塚治虫を取り巻く環境
かつて手塚治虫は、永井豪の『あばしり一家』や『ハレンチ学園』といった過激なエログロナンセンス漫画が人気を博していた時代に、その作風が時代遅れだと見なされる時期がありました。同じく「週刊少年チャンピオン」で連載された『アラバスター』や『やけっぱちのマリア』も、当時の流行に乗り切れず、低迷したとされています。
漫画研究家の夏目房之介氏は、手塚治虫が水木しげる氏の『ゲゲゲの鬼太郎』に対抗して『どろろ』を描いたことからも、その対抗意識の強さと、それが時代とのズレを顕在化させたことを指摘しています。
沈黙の時期は「充電期間」?
しかし、本当に手塚治虫は低迷していたのでしょうか?実は、その時期も新たな挑戦を続け、後の活躍につながるパワーを蓄えていたのです。小学館の「ビッグコミック」では、『きりひと讃歌』、『奇子』、『ばるぼら』、『MW』など、現在では傑作と評される作品を次々と発表していました。
手塚治虫は、自身が持つ医学知識やアニメーション制作の経験を活かし、社会問題や人間の深層心理に切り込んだ作品を生み出しました。これらの作品は、後の『アドルフに告ぐ』や『陽だまりの樹』にも通じる重厚なテーマを扱い、大人の読者からも高い評価を得ました。
『ブラック・ジャック』の大ヒットと復活
1973年に『ブラック・ジャック』、1974年に『三つ目がとおる』を連載開始した手塚治虫は、漫画家としての復活を遂げます。漫画評論家の米沢嘉博氏は、『ブラック・ジャック』を「懐かしの手塚キャラ、スターたちの登場による自己パロディー」と評し、1話完結というスタイルが、当時の読者に新鮮に受け入れられたことを指摘しています。
また、団塊の世代がマンガ読者から離れ、新たな世代がマンガ読者として台頭していた時期でもあり、手塚治虫の作品は、経験を重ねて先鋭的な表現を取り入れたことで、幅広い層からの支持を得て、人気を博しました。
『来見沢善彦の愚行』に映し出された手塚治虫像
「少年ジャンプ+」で連載中のときわ四葩氏の『来見沢善彦の愚行』に登場する、かつて人気を博したが現在は「古い」と言われている漫画家大寒鉄郎は、手塚治虫をモデルにしたキャラクターと言われています。担当編集者から「丸っこいお子様ランチみたいな作品はもうウケない」と指摘される大寒の姿は、手塚治虫が直面した苦悩を彷彿とさせます。
しかし、手塚治虫は、時代に流されることなく、自身の信念を貫き、漫画史に輝かしい足跡を残しました。低迷していたとされる時期も、実は新たな挑戦と創造の準備期間だったのかもしれません。
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