「お父さん、警察官が取り締まられるようなことをしたら終わっとるよね」…娘の一言がきっかけ、元警官が告発した“カラ出張”の真相
4年前の冬、広島県警に勤務していた粟根康智さん(46)は、小学6年生の長女から突き放されるような一言を浴びせられました。それは、粟根さんが抱えていた不正に対する自責の念を、さらに深くえぐるものでした。
“天職”だった警察官の仕事、そして闇
幼い頃から警察官に憧れていた粟根さんは、就職氷河期を乗り越え、27歳で広島県警に採用されました。警備課に配属され、要人警護やテロ対策、災害救助など、危険と隣り合わせの任務に就きました。特に、公安警察の一員として秘匿捜査に携わっていた時期は、夜通し張り込むことも珍しくなく、やりがいを感じていたといいます。
優秀な成績を収め、県警本部から表彰も複数回受けていた粟根さんの運命は、上司となったA警部の下で働くようになってから暗転します。
上司からの指示で“カラ出張”…不正の連鎖
A警部の指示のもと、粟根さんは2019年から20年にかけて6回の“カラ出張”を繰り返しました。これは、公務で出張したと偽り、旅費や時間外勤務手当を不正に受給する行為です。約5万5000円を受け取ったものの、罪悪感とストレスは日増しに増していきました。
心身の不調から心療内科を受診し、適応障害と診断。休職を余儀なくされました。さらに、交通事故にも遭い、重傷を負い、後遺症が残りました。復職も考えましたが、以前のように働くことは難しいと判断しました。
娘の一言が背中を押した、辞職と告発
そんな中、長女から「お父さん、警察官が取り締まられるようなことをしたら終わっとるよね」という言葉をかけられます。不正と向き合い、警察官として正しい道を歩むことの重要性を訴える娘の言葉に、粟根さんは心を揺さぶられました。
「うちら貧乏になってもええけ、警察官としてちゃんとして」
長女の言葉を勇気に変え、粟根さんは辞職と同時に公益通報することを決意します。しかし、内部告発は容易ではありませんでした。秘匿性の高い作業班での経験から、同じ警察官にも詳しく話すことができず、監察部門への連絡もなかなか繋がりませんでした。
退職2分前に送った告発メール、そしてその後の展開
2022年3月31日、休職中のまま警察官としての最後の日を迎えた粟根さんは、証拠を残すため、就業終了時刻の2分前に県警の公益通報窓口にカラ出張を告発するメールを送りました。
県警の調査は遅々として進みませんでしたが、最終的にA警部らが詐欺や虚偽公文書作成・同行使の疑いで書類送検されました。A警部は依願退職し、不起訴処分となりました。
告発から新たな一歩へ、福山市議選への挑戦
退職後、粟根さんは2024年の福山市議選に立候補しました。選挙のチラシには「元警察官内部告発者」と明記し、「こどもを核にしたまちづくりの実行」を掲げました。市議になること自体は目的ではなく、街頭宣伝を通じて、古巣の警察官らに不正に目をつぶるな、声を上げろと訴えるためでした。
「上の人間が不正をしてお前らが黙っていて、誰が得をするのか。お前らがちゃんとせんと、市民は誰を信じればいいのか」
現在は定職に就かず、妻の稼ぎや投資で娘2人を育てています。長女たちは「昔のように外食や旅行ができなくなった。でも後悔していないよ」と言ってくれるそうです。普段は、小学生から高校生までの子ども約50人にボランティアで勉強を教えています。困っている人を助けたいという思いは、警察官を辞めても変わらないと語ります。