津波で引き裂かれた親子の絆…紙芝居「マーくんがんばれ」が伝える東日本大震災の記憶
2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けた千葉県旭市で、津波に巻き込まれた母と息子の体験を基にした紙芝居「マーくんがんばれ」が、震災の記憶を風化させない取り組みとして注目を集めています。2024年3月8日に旭市内で披露されたこの紙芝居は、観客の心を強く揺さぶりました。
津波の恐怖と母子の奇跡
紙芝居は、当時74歳の母親と36歳の息子マーくん(軽度のダウン症候群)が、海に近い家で暮らしていた様子から始まります。震災当日、仕事から帰宅したマーくんと避難しようとした直前、玄関を突き破るように津波が襲いかかりました。「ゴゴゴゴゴー、ドドドー」という迫真の音とともに、2人は真っ黒な水の塊に飲み込まれてしまいます。つないだ手が引き裂かれ、マーくんの姿が見えなくなってしまいます。
母親は瓦礫に挟まれ身動きが取れず、体が冷えていく中で消防隊員に救出されました。一方、マーくんは家の屋根に乗って救助され、夜に避難場所で母親と再会を果たします。青い顔で震える息子に、母親は「生きててくれてよかった」と抱きしめました。マーくんは津波にのまれながらも、「マーくん、がんばれ」という声が聞こえたと言います。
紙芝居劇団「ふく」が紡ぐ記憶
「マーくんがんばれ」を制作したのは、地元の紙芝居劇団「ふく」です。元高校教諭の渡辺昌子副団長(79)を中心に、2013年に結成されました。渡辺さんは、津波を語り継ぐNPO法人「光と風」の事務局長も務めており、被災者の証言をまとめたフリーペーパー「復興かわら版」を発行しています。
渡辺さんは、震災の2カ月後に母親から話を聞き、子どもたちに体験を伝えるために紙芝居の制作を提案しました。短くわかりやすい言葉で原案を書き、初等中等教育に詳しい専門家がセリフなどを監修。原画は市の職員がボランティアで協力して制作されました。団員たちは発声練習を重ね、波の音を表現するなど、演出にもこだわりました。
未来へ繋ぐ、海の記憶
紙芝居の最後には、震災後に海を見つめる母子の会話が盛り込まれています。「母さんは海を憎めないの」「どうして?」「父さんとよく遊んだ美しい海を覚えているでしょう。飯岡は、この豊かな海とともに暮らしてきた町なのよ」というやり取りを通して、海のそばで生きてきた母の思いが表現されています。
劇団「ふく」は2015年に紙芝居を完成させ、以来、毎年のように披露しています。渡辺さんは「震災の記憶がない若い世代にも語り継がなければとの思いで上演している。今後もやれるところまで続けたい」と語っています。
この紙芝居は、東日本大震災の悲劇と、そこから立ち直ろうとする人々の強さを、世代を超えて伝えていく大切な役割を担っています。