人を惹きつける「光」の正体とは?三浦しをんが描く連作短編集『夜の恩寵』インタビュー
あなたは、誰かの言葉や存在に、人生を大きく左右された経験はありますか?私たちを強く惹きつけ、光り輝いて見える「カリスマ」。しかし、その輝きは本当に純粋なものなのでしょうか。今回、直木賞作家の三浦しをんさんが発表した新作連作短編集『夜の恩寵(おんちょう)』は、そんな「信じること」のあやうさと暴力性を鮮烈に描き出し、読む人の価値観を揺さぶる一冊です。
「天草四郎」への興味から始まった、信仰とカリスマの原点
「不思議な力で人々を導いたと言われるカリスマ的な存在に、昔からずっと興味がありました」と語る三浦さん。今作の執筆には、歴史上の人物である天草四郎が抱えていた、ある種の不可解さがインスピレーション源になっているといいます。物語では、特別な力を持つとされる人物に人々が熱狂し、コミュニティが形作られていく過程がリアルに描かれます。それは現代社会の身近な人間関係にも通じる、「信じたい」という人間の本能的な欲求を鋭く突いたテーマです。
夢と現実が溶け合う怖さ――「自分」を見失うあやうさ
作中に登場するキャラクターたちは、予知夢や「神」の憑依といった人智を超えた事象に翻弄されていきます。三浦さんは、自身も夢の中で現実と見紛うような体験をしたことがあると明かしつつ、「誰かを盲目的に信じることは、思考を放棄することにもつながりかねない」と警鐘を鳴らします。夢と現実の境界線が溶けていく感覚は、今の私たちがSNSやコミュニティの空気にのまれ、いつの間にか「自分」を失ってしまう怖さとどこか似ているのかもしれません。
何かに依存せず、自分の足で立つために
物語の中には、そうしたカリスマや夢の力に惑わされる人々の一方で、何ものにも依存せず、現実をしっかりと踏みしめて生きる少年の姿も描かれています。三浦さんは、「『こうあるべき』という理想の型にはまろうとする心の隙間に、信仰やカリスマは入り込む」と分析します。完璧な人間などおらず、私たちもまた、何かにすがりつきたい弱さを抱えています。だからこそ、この小説は、読む人の心に「信じることの本当の意味」を問いかけるのです。
今、改めて読みたい「人の心の揺らぎ」を描いた物語
『夜の恩寵』は、日常のすぐ隣に潜んでいるかもしれない「非日常の光」を、三浦しをんさんの瑞々しい感性と言葉で切り取った傑作です。信じることの力強さと、それがはらむおそろしさ。その両面を冷静に見つめる眼差しが、混沌とした現代を生きる私たちの背中を、そっと支えてくれるはずです。気になる方はぜひ、